ジョン・レノンの“Ｈｏｗ？”という歌の出だしである。イントロも何もなく、いきなり搾り出すような声でこう来る。ジョンの声の後ろにはドラムの音だけ。最初に聞いたときに背筋がゾゾゾッとした。有名な”Imagine“というアルバムに入っている。

　このアルバムが出た頃、私は学生寮住まいだったので、自室ではレコードが聞けず、当時のボーイフレンドに録音してもらったカセットで聞いた。だから手元に歌詞カードがなかった。窓辺に置いた音質の良くないラジカセから流れてきたこの歌詞が、私の脳天に突き刺さった。慌ててテープを巻き戻し、紙に歌詞を書き留め始めた。何度聞いても不明瞭な部分があって、判明すべくカセットを握って仲の良かった先生の研究室に飛び込んだりもした。

　この歌の中程で、彼はこうも嘆く。

　”How can I have feelings when my feelings have always been denied?"
　「感情を否定され続けてきた自分に、どうして感情が持てるだろう？」

　ジョン・レノンは、その生い立ちにおいて、恵まれていない。船乗りだった父親は家に寄り付かなかった。母親も幼いジョンの養育にほとんど関らず、彼は叔母の手で育てられている。充分な愛を与えられなかった子供は、孤独な魂を抱いた大人になった。研ぎ澄まされた感性と類まれな表現力で、４０年の短い生涯に数多くの歌を残した。没後２５年を経過せんとする今も、世界中の人々の心に訴え続ける不朽の名作の数々。まこと、苦悩は芸術の母なり。

　人は時として行き詰る。何をどうしたいのか、どちらの方向に進みたいのか、心の中で思考と感情の糸が絡み合う。ほどけない。糸の先が見えない。混沌とした状況の中で外風に吹かれて立ち尽くす。足先が凍る。小さな決断も大きな決断もできぬまま、他人からの助言も空を滑り、両の目を見開いて闇を見つめるも、光は射さない。

　私は、その後の人生において、この歌詞の状態になったことが二度ほどある。三度目はもうイヤだ。

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How can I go forward
when I don't know which way I'm facing?

[サエコポン訳]

どう足を踏み出せばよいのだ？
お先、真っ暗だのに。

２００５年９月２０日

　

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