駅まで迎えに行って、車中で二人に「タラを見てキャーとか言わないこと」「追い回さないこと」「目を合わせないこと」等と因果を含めておく。温厚なネコとしか暮らした経験しかない人々には「はぁ？」な忠告である。ネコにも色々あるのよ。ほほほ。

　お約束通り、タラは警戒心丸出しで、お客にシャーシャー言い、時々寝室に引っ込んで作戦を練っては、おもむろに前線に繰り出して、怪しい二人にガンを飛ばす。で、この客がまたこの客で、人の忠告は右から左で、ネコに手を出さずにはいられないのであった。タラ引きこもり中の寝室に自己判断で侵攻し、「ずっと目を見ていたら、シャーされたが、そのうちタラちゃんの方が目をそらしたので、勝ったと思う」と報告するアンママ・ダンナ。あのね〜。

　私は、「そう言えば、このパソコンの中にアンチ君の写真が残っていたのよ」と探して見せた。かつてアンママ宅を訪問したときに撮った写真が二枚あったのだ。デジカメなのにたった二枚しか撮っていないという怠惰さもさることながら、そのどっちもがカメラマンの腕の悪さ丸出しで、シャッターチャンス最悪、フレーム外れのピンボケ。それでも「ああ〜、アンチだ〜」と喜ぶ遺族。

　「思い出したよ。この日も暑い日だったの〜。私、お宅に行く途中にサーティワン見つけて、そこでアイスクリーム買って行ったの〜、なのに、あれこれしてたら、食べるの忘れて帰ってさぁ、悔しかったわ〜」
　「サエちゃん、くだらないこと、憶えてるね〜。ふ〜ん、これ、五年前の夏なのね」
　「そうみたいね。日付が、えっと・・・・・８月２５日・・・・」
　「そ、それって、今日じゃん・・・・」

　背筋にゾクッと来た。アンチ君に会おうと、千葉まで出かけたのは、奇しくも、ちょうど五年前の今日だったのだ。それ以来、アンママとは、たま〜に連絡をとっていたものの、実際には会っていない。五年ぶりの再会の日を選んだのは、お空のアンチ君か？

　アンチ君はあのような病気にかかったので、老猫かと思いきや、タラと同い年であったということも、今回わかった。誕生日は一ヶ月程度しか違わないのである。享年五歳はあんまりだ。アンチ君の話になるたびに、涙を滲ませるアンママの気持ちはよくわかる。私もポン太を失ったときは、あらゆるキューでメソメソ・スイッチがオンになっていたものだ。その喪失感は非常に深かったが、タラを貰ってしまったら、これがまた、あらゆる意味で泣いている場合ではなくなった。ペットロスは次のコが癒すというのは、よく聞くパターンである。

　「で、またネコを飼おうと思っている？」
　「うん。でも、まだ積極的にはね〜」
　「どっちみち４月生まれは全部掃けたからね。そいで、色とか模様はどんなのが？」
　「アンチと似てないほうがいいと思ってるの」
　「なるほど。ま、半分だけアメショ柄ってのも、なかなかおらんがな。で、オスがいい？それともメスが？」

　アンケートの結果を、しっかりと心のノートに記した８月２５日であった。