その日の朝、ベランダの花を切って小さなコップに挿し、ガラス扉の奥にいるポン太のために飾った。白い布に覆われた箱ににっこり笑いかけた。
　「どう〜？元気〜？」
　二年前に死んだネコが元気なわけはない。でも、そんな明るい気分だった。昨年は春の訪れがポン太の苦闘を思い起こさせてつらかったから、私はペットロスから立ち直ったと言えるのだろう。

　私がネコ・サイトを始めて一年半である。ネット上の繋がりが非常に密になり、ネコ友達が爆発的に増え、情報の流入は滝のごとくだ。「うちのネコがどーした、こーした」という他愛ない話も多いが、病気に関する真面目な情報の量が、また半端ではない。治療の実体、薬の種類、サプリメントの効果、などなど。すべてナマの現場からの報告である。

　二年前にあったのならば、知りたかったと思う情報も多い。ゴハンの難しかったポン太に外国産のネコ缶をネットで購入してやりたかったな。飼い主による自宅輸液など、当時は思いもよらなかった。それができたら、ポン太もストレスが減っただろうな。二年前の私はネットにはド素人だったから、もっと熱心に検索すれば、そういう情報も見つけることができたのだろうか？腎不全が発覚したのち様々な手を尽くし、長く存命しているネコが多くいることもわかった。

　ここで「ふがいない飼い主でごめんね」と結べば、私もしおらしい女だが、この件に関しては、そういうまとめ方をしたくない。

　ポン太はその生涯を実に安逸に暮らした。９年半の幸せな飼い猫生活だったと思う。高級フードは買って貰えなかったが、自分のお気に入りのフードを食べ、食卓にマグロの刺身が出ると二切れほど分けてもらって大喜びをした。栽培したてのネコ草が大好きで、室内に取り込んでやるとニャコニャコ鳴いて足元にまつわりついた。遊びたくなると、使い古しのネコじゃらしをくわえて来て人間の前にポトリと落とし、寒くなると人間にべったりくっついて寝た。互いに幸せだった。

　運命だったね。うちに来たのも運命。腎臓を壊したのも運命。短い闘病だったのも運命。「ごめんね」は言えないの。後悔はしたくないの。そんなことをしたら、今の心の平安が崩れ去るから。乗り越えた二年の月日が無駄になるから。