ポン太がこの世を去って、およそ一年半が経つ。今では二代目タラが賑やかしてくれているものの、折にふれ、あのおネコよしな茶トラが懐かしい。そのポン太が、氷雨降る１１月の夜、クロネコのオニーサンに連れられて、玄関から戻って来た。

　「葛西の隠居」を名乗るネット界のお絵描き名人がおられる。ご自身のホームページ「猫の肖像画舘」には、数々の作品が展示され、そこでのキリバンをゲットすると、写真を元に、愛猫の肖像画を描いていただける。が、私は実はキリバンを取っていない。ご隠居さんが「ポン太ちゃんの話に興味がわいて」と作成を申し出てくださったのだ。人生、外した運も数多い私だが、棚からボタモチが降ってくることも、たまにはあるのだった。

　「つきましては、希望の写真を送ってください」と言われ、私は悩んだ。ポン太の写真はたくさんある。きちんと座った美猫写真、ちょっとしたお笑い画像、得意のくるくるアンモナイト・・・・。う〜ん、でも、やっぱりコレだ。最終的に選んだのは、ソファで眠る生後三ヶ月のポン太であった。子猫はどのような姿態でも可愛いものだが、遊び疲れて眠る姿の愛らしさといったら、また格別である。運良く路上から拾い上げられ、成り行きでうちのネコになったポン太。平凡で平和な飼い猫生活の始まり、それがこの画像である。南の窓からの暖かい日差しを浴び、この世に辛いことは何もない。

　ご隠居さんは製作過程もホームページ上で公開しておられる。私は頻繁に覗きに行った。ポン太の輪郭ができて、背景がついて、更に手が入って、もっと手が入って・・・そしてついに完成。ただ、似ているだけの絵ではない。魂の入った肖像画であった。９年半の生涯を閉じたポン太は、この作品の中でもう一度子猫に戻り、命を与えられた。

　丁寧な梱包を、慎重にといていく。段ボールの中で、ビニールにくるまれ、薄紙をかけられ、子猫のポン太が眠っていた。ポン太を引き取った遠い日、あれも寒さがつのり始める１１月のことだった。生まれて初めて親兄弟と分けられたのに、鳴きも騒ぎもせず、運命のままに、この家に溶け込んだ子猫。

　帰ってきたポン太を、窓際のソファの角に置いた。元気な頃のお気に入りの寝場所。そして、１１年前にこの写真を撮った場所でもあった。少し泣けた。でも悲しい涙ではなかった。

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