仏教式に数えると、ポン太の初七日にあたる日のことだった。

　昼前に近くのスーパーに行った帰りに、丸々とした茶トラに遭遇。近所では見かけない顔で、団子尻尾のちょっと不細コ。それが私を見て、とっとっとっと寄ってきて、すりすりを始めた。私がしゃがむと、ずっとぐるぐる周りをまわって、強く強く頭を何度も押し付ける。おなかが減ってるという感じではなくて、ただただなついているだけ。私はネコをなでまわしたいだけなでまわし、そいつはぐいぐい対応。５分くらいやってて、向こうから散歩のイヌが来たとき、ゆっくりと茂みに入っていき、そこから去っていく私をずっと見ていた。

　その夜は、遠来の友人が東京を発つことになっていたので、見送りに間に合うよう夕方、夫と家を出て、途中のファミレスで夕食を食べた。「初七日なのね〜」とかいいながら、ご飯を食べて、ちょっとトイレに行ったら、むやみやたらと照明が明るい。鏡を見たときに、私の唇の下にある古傷がくっきり見えた。普段まるで忘れているごく薄い傷なのだけど、ポン太が子ネコ時代、パニックになったときつけた引っかき跡だ。噛まない、引っかかないネコが、私に残したただ一つの傷だった。横からのきつい蛍光灯に、その線が浮き出て「あ、ここにポンが残ってたんだ」と気がつかされた。

　更に、東京駅で友人を見送ったあと、やはり見送りに来ていた別の人達と「じゃ、お茶でも」と東京駅横のホテルの喫茶に入り、歓談。その後ホテルから出ようとすると、自動扉のまん前に、まっすぐこっちを見て座っている白にブチのネコ！！こいつも丸々太ったネコだった。なんで東京のど真ん中、ホテルの前にネコがいる？　さらに奥からもう一匹。「こりゃ絶対ポンが乗っかってるわ、いろんなとこで」と言いながら、自宅最寄の駅から帰路を歩いていたら、白茶のネコが目の前を突然横切り「ちょっと過剰だわね」と思った。

　そんなわけで、なんだか寂しがる暇もない初七日の次の日のこと、ポン太の骨壷の前には小さな水入れがあるのだけど、私が見ていると、水面が軽く波立つのだ。その３センチ隣にある花の水は動かないのに。

　ポン太は死ぬ前にどうしても水が飲めなかったが、やっと安心してピチャピチャできるようになったようだ。

　よかった。

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