世の中には、ネコのネコらしい行動によって家中をボロボロにされても、目を細めて見守っているヒトがいるようだが、私は違った。ネコにとってもヒトにとっても快適な暮しを追求した。

　ネコは爪をとぐ。用意周到な私は、ポン太を引き取る前にペットショップにて、種類の異なる爪とぎを３個ほど調達した。段ボール物、洗濯板もどき、荒縄巻き。どれか気にいるだろう。

　やって来た子猫は壁紙、ふすま、畳、柱には目をくれなかった。「ラッキー！」と思ったら、カーペットがお好きだった。うちはカーペット面積が広いのであった。部屋と廊下の間の段差も敷きこみカーペットがぐるりと覆っていて、ここが主なターゲットとなった。ならば、とカーペット張りの爪とぎを購入してきた。

　お仕着せの爪とぎ板は、しっかりと床を覆うリフォーム後３年、ウール百パーセントのカーペットの魅力に勝てなかった。爪とぎ板はどれも見捨てられ、床の段差部分はどんどん毛羽立ってくる。ネコが嫌うというスプレーをそこに吹き付けておいても、ものともせず、盛大にバリバリしてくださった。

　私はカーペットと同色の丈夫な布を買ってきて、床に這いつくばって、布を直接カーペットの段差部分に縫い付けた。するとそこは狙わなくなったものの、「平面でもいいや」とばかりに、あちこちでバリバリが始まった。う〜ん。

　その頃、人から観葉植物をいただいた。鉢の周囲が麻布で覆ってあって、ふちのあたりをリボンでくくったおしゃれな仕立てになっていた。この麻布をポン太が鉢も倒れよ、といわんばかりに引っ掻いている。「これだ！」と鉢カバーを外してみたら、それはブラジルから輸入されたコーヒーの袋であった。そのコーヒー袋を切り開いて、市販の爪とぎに巻きつけると、ポン太様ご用達特製スクラッチボードが出来上がった。

　ならば、とペットショップで似たような麻布を貼り付けたものを見つけて買ってきた。しかし、どこかが違うらしい。ブラジルものでなければお嫌のようで、これもボツになった。

　元鉢カバーがボロボロにならぬうちに、新しいコーヒー袋を見つけねばならぬ。どこに行っても喫茶店に入れば、「つかぬことをお伺いしますが・・」と尋ねてみたが、麻袋で購入していないところが多かったし、「あら、捨てちゃったばっかりなの」ということもあった。

　しかし、意外に近くでブラジル産コーヒー袋を一枚百円で払い下げてくれる喫茶店が見つかった。家庭内の平和のために何度かまとめ買いしたが、ある日、その店がつぶれていることに気がついた。

　ま、まずい・・・。

　コーヒー袋は裏を安全ピンで留めていたが、ほつれてくると、ちょっとづつずらして留めなおし、一枚を長く使うようにした。かなり悲惨な状態になっても、新入荷が困難だから、我慢して使ってもらっていた。

　２０年生きてもらう予定のネコが、９年目に病気になった。うちの納戸にはまだかなりの在庫があった。久しぶりに張り替えてやると、ポン太は力なくゆるゆると引っ掻いた。

　その爪とぎは痛むことなく見捨てられ、残りのコーヒー袋が使われることもなかった。

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