15 フクの攪乱 |
ネコはよく吐く。毛玉を排出するのに吐いたり、未消化のフードを吐いたり。
だから、私も最初は何とも思わなかった。 その朝、吐いた跡が三か所あった。掃除、掃除。あれ? 毛玉らしきものはないな。 それから私はちょっと出かける用事があって、戻って来たら、また室内に吐いた跡があった。 フードではなく、ツバだけ吐いている。吐しゃ物をよく見ると、一部が赤い。これ、血? わっ!また吐いた。半日で五回の嘔吐は尋常ではない。 キャリーにフクを詰め、動物病院に足早で向かった。暴れん坊将軍、フクは、 定期的に爪切りをしてもらっているため、私の顔は看護師さんにしっかり認識されている。
「あっら〜、フクちゃん、爪切りの時期ですね〜」 診察室に入ったら、先生は黙ってフクの爪切りを始めた。そ、そこからですか? いつもだと保定されても大暴れで、先生と看護師さんを手こずらせ、 私に口を押えられているフクなのに、もぞもぞ動くだけで、爪をパチンパチン切られている。
「フク、いつもと全然違いますよね?」 点滴というのは、肩あたりから皮下輸液をすることなのだが、プスッと針を刺したら、 フクが渾身の力で暴れ始めた。そのものすごい勢いに、看護師さんと私が4.15キロを抑えきれず、 輸液セットがぶっ飛んでしまった。輸液中止・・・・。 フク、獣医さんとこに来るのは割と平気なんだけど、医療行為を施されるのに難があるネコだった。 参ったね。 薬を二種類貰って、家に戻った。フク、いつもと全然違う。身体を小さくして隅の方でじっとしている。 横になって寝ない。人間の動きにも興味を示さず、目に生気が感じられない。 本当にただの胃腸炎なの? 看護師さんが最初に言っていた「良くないもの」に思いを馳せる。・・・もしかしたら? オットに詰問する私。
「昨日、お好み焼き作るのに、ネギのみじん切りしたじゃん?」 オットは普段ほとんど料理をしないが、お好み焼きは作れる。そして料理をすると調理台を散らかし、 食品をこぼす人である。前日のお昼にお好み焼きをして、それから床掃除をしてない。 キッチンの床に這いつくばって痕跡を探す。これは? あ、キャベツの欠片か・・・。 ネギは見当たらないな。でも落ちていたかもしれない・・・・ネギ。ネコの毒、ネギ。 まだギリギリ診察時間中だった動物病院に電話し、「もしかしてネギ」の可能性を伝えてみる。
「万一、様子が急変するようなら、時間外でも留守番電話にメッセージを入れてください。
その後、もしこちらから折り返し電話がない場合は、
24時間対応の動物病院に連れて行ってください。場所は・・・・」 その日、痙攣を起こしてないか、呼吸困難になってないかを確認するために、 夜中に私が一回、オットが一回、起きて確認。フクは定位置の人間のベッドではなく、 床の隅でしょぼんと固まっている。 しかし危険が迫っている様子ではなかった。 朝だ。さて、投薬だ。フクは身体を拘束されるのがとにかく嫌いだから苦労するだろうと覚悟し、 ネットでネコの投薬動画を三本ほど見てイメトレをした。よしっ! まずは錠剤だ。私は大きめのカーディガンを着て、脇の下にフクを包み込み、 手足が出ないようにしてから、顎をクイッ、喉の奥に薬をポイッ。おお、うまくいっちゃったよ、天才か。 次、粉薬はチュールに混ぜよう。チュール、チュール、チャオチュール♪、 小皿に出して薬とグチョグチョ。 あ〜ら、きれいに食べたよ。薬も込みで全部舐めちゃったよ。 めったと貰えないチュールが嬉しかったの? フクは元気がないものの、再び通院せねばならないようには見えなかった。 夕方、二回目の投薬。カーディガンで〜、脇に挟んで〜、ポイッ。チュールで〜、 グチャグチャを〜、ペロペロッ。おや、もっと食べたい顔をしている。 いつものパウチ入りフードを少量出してみた。おや、食べるよ。でも急に沢山はダメだからね。 この続きは、吐かないのを確認してからね。 結局、嘔吐大会の翌日、フクは一度も吐かず、ウエットフードの続きも食べ、 ドライフードも食べ、シッコもし、様子にも徐々に活力が見られるようになった。 夜になって、バババッと私の足に襲い掛かって、パンツとソックスの間に出た生足部分をバクッと咬んだ。 イデデ、咬まれてホッとしたのは初めてかも。フク、V字回復しとるやん。絶不調は一日だけ。 一体、なんだったのか? (~_~メ)
|