えらそうに言っておいて、いきなりテーマを外すが、タラは私がウマいと思っているようで、相変わらずパックリしにくる。だが、私自身はこの家庭内サファリパーク状態がトラウマになっていない。よかった、かろうじて本筋にもどれた・・・。

　そもそも私は、かつて、よそのイヌに噛まれて入院、という事件の主人公になったことがあるのに、その後も、イヌが平気だったりする。そのうちムツゴロウさんみたいに、ライオンに指を持っていかれても、笑っているようになるかもしれない。気をつけよう。

　そう、タラのトラウマの話なのである。ここまでタラ話を忍耐強くお読みいただいた方なら、ご理解しておられよう。タラは強気である。果敢である。怖いものなどないに違いない。

　ところがどっこい、あるのであった。

　タラはペットボトルが怖い。長さ２０センチくらいの小型のボトルが、タラは何よりも怖い。最初から怖かったわけではない。トラウマになるには過去に遡る恐怖体験が必要だ。

　タラは小さい頃から、暇さえあれば、私の腕や足をかかえこんで噛んでいた。しかもネコは起きている間、常に暇だった。ストレスを発散させれば多少控えてくれるので、市販やら、手作りやらの様々なおもちゃで、よく遊んでやった。ある日、空のペットボトルが部屋にあって、タラがそれをつついて遊んでいたので、もっと使いやすくしてやろうと思いたった。ペットボトルは私の腕くらいの太さだったので、これを腕の代用品として使っていただけないかというもくろみもあった。

　ツルツルする表面では爪が引っかからないので、ボトルを布でくるんだ。音がしたほうが、気を引くと思い、中に鈴や釘を入れた。ヒモもつけて、はい、できあがり。

　タラは気に入ったようで、抱えてキックしたり、ヒモを引っ張りまわしたりして楽しんでいた。オッケー、オッケー。

　夜中の一時くらいだったと思う。ガラン、ドゲン、ガラン、ドゲン。大音響とともにタラが家中を走り回り始めた。ペットボトルにつけたヒモが首をくぐって、身体にたすきがけになり、とれなくなってしまったのだった。逃げても逃げても追いかけてくる、音のする怪物から、タラは猛スピードで逃げている。怪物も猛スピードでついていく。はずしてやらねばと、私もタラを追いかける。だが、とんでもないいきおいで、ガラン、ドゲン、ガラン、ドゲン。つかまらない。

　すでに就寝していた夫も起きだして来た。
「なにごと？」
　こんな時間だ。近所迷惑も考えないといけない。なんとか二人がかりでタラをはさみうちにし、やっと外してやった。やれやれ。

　それがタラのトラウマとなった。

　タラには気の毒なことだが、同居の人間としては、結果オーライ。タラがしつこくからんでくると、「このボトルが目に入らぬか〜」と振ってやる。タラはスタコラ退散である。オッケー、オッケー。 　 　 　　 　

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