５３ ブラック企業
ブラック企業というのは、モラルを欠いた言語道断の会社経営で社員をこき使い、内部事情を知れば絶対に就職したくない会社のことである。劣悪な職場環境下、到達不能なノルマに負われ、帰宅は日付が変わってから。パワハラ、セクハラあたりまえ、いつも周囲の顔色を伺ってビクビクし、昨日まで隣の席にいた同僚が前触れなく消えるのも茶飯事。イヤですね。そんなタコ部屋みたいな会社に捕まらないよう、学生諸君は気をつけましょう。
ところで、私はネコと暮らすことは、ネコと労使関係を結ぶことではないかと思っている。ニンゲンがネコを飼っているはずなのだが、ネコは永久就職したとたん、巧妙に立場を逆転させ、飼い主を顎で使い始める。
飯、まずいやんけ。
トイレ、汚いやんけ。
ドア、開けんかい。
暖房つけんかい。
さっさと遊ばんか。
遊びに工夫が足らんわ。
爪とぎが気に入らん。
ソファでといだろか。
いつまで寝とんじゃ。
起きろ、もう四時半だろうが。
咬むぞ。
････結構なブラック企業でないか。
私がタ（ラネン）コ部屋の住人になってそろそろ八年。日々、ネコの顔色を伺いながら生活をしているわけだが、最近、オットが週末限定で労働に駆り出されている。ま、週日はほとんどタ（ラネン）コ部屋にいないから、タラとしても土日を狙うしかなかったのであろう。
休日の朝、遅めの朝食のあと、パジャマのままでソファに向かい、テレビを見ようと座り込むオットをタラは見逃さない。目の前５０センチのところに陣取って、正面からメンチを切りつつ、「ワニャッ！」と一喝。 そのわかりやすい命令をスルーすると、次は床に転がり、長〜く伸びて回転しながら「ゥニャ〜〜ォ〜〜！」と来る。 この業務命令を日本語に翻訳すると、前者が「ブラッシングせんかい！」で、後者が「さっさとせんかい！」である。 土曜と日曜の両方、毎週欠かさず、同じタイミングで、同じ場所で、仕事は命じられる。祭日も見逃さない。
どうしてこんなにブラッシング好きになったのだろう？ブラシをかけると恍惚とした表情でクネクネし、Ａ面が終わったら、自らＢ面へと寝返りする。顎を突き出しては「次、ここ」と催促。やっているうちに段々と腰が持ち上がってお尻が突き出るのは何故？ セ、セクハラ？
ブラッシングが終わっても、オットの業務は終わらない。私が脇から「抜け毛〜」と次の指示を出すからである。タラのボディに粘着ローラーをかけ、カーペットに洋服ブラシをかけて抜け毛を掃除して、やっと全工程終了となる。
そんな感じで、ここ数ヶ月、タラはブラッシングに執着しているのだが、私には気になることがある。うちのネコ用ブラシはシリコン製である。姉が故ポン太にと買ってくれたもので、非常によく毛がとれる。そのとれ方ときたら、もう見事なもので、抜ける予定のない毛すらどんどんとれる。思い起こせば、オットはかつてブラッシングで、ポン太の肩甲骨あたりをハゲにしたことがあった。すべてのストロークの始まりが肩甲骨あたりだったので、そこの毛が集中的に抜けたと見える。タラ、それを危惧しての、Ａ面→Ｂ面移行？ 顎突き出し？
本格的な換毛期を前に、全身まんべんなく毛を間引こうという考えは悪くないが、今年の春はなかなか暖かくならない。タラ、クリーニング屋の陰謀に引っかかって、この寒いのにコートが手元にない私を笑えるか？
