５ 伸びる
子猫の成長はビデオの速回しを見ているようだ。生後二ヶ月で８５０グラムだったタラは、一ヶ月半で倍になった。キャットフードの消費量から見た燃費は抜群、と言えよう。ヨタヨタ歩きは、うちに来た最初の数日だけだった。体重増加は、主に筋肉増加のようで、すぐに足どりがしゃっきりしてきた。昨日登れなかった椅子に今日はヒョイと乗る、といったあんばいであった。
だが、タラの成長を体重で語るのは適切でない。タラは「伸びる」ネコであった。ネコの身長を測るのは難しいが、その伸びっぷりは、誰の目にも明らかであった。幅はちっとも拡がらず、脚と胴体が、ニョキニョキという感じで伸びていく。お母さんネコもスリムだったから、そういう血なのだろう。
頭は小さいままだ。体型だけを見ていると日本猫というよりは、アジアの南方で見かけるネコのようだ。シャムの体型にも近いかもしれない。骨組みがそもそも細く、狭いところもスルリと通れた。パソコン机の後ろからスルリ。ビデオラックの配線口からスルリ。ドア下の５センチの隙間をくぐった時は、「忍者かい！」と目を疑った。
毛足が短く、非常に密なので、なでてみると、ヌメヌメとしていて、好意的にたとえれば、ビロードのようだ。ナデナデ、ウネウネ、ヌメヌメ・・・この感じはネコというよりは、イタチか、それとも。流行りのフェレット？顔もとんがっていて、子猫としてはいかがなものか・・・。
タラよ、このまんまひたすら伸びるんかい？ネコは座り姿を後ろから見たときの、安定した曲線三角形がいいと思ってたんだけどねえ。
さて、タラは五ヶ月を過ぎ、２．８キロとなった。昨日、タラが久々に私の手を噛んだので、教育的指導をしてやろうと、追いかけたら、パソコン机の後ろに逃げ込もうとした。
頭は通った。肩も通過した。だが、腰骨で引っかかって、ニッチもサッチもいかなくなった。しばらく、隙間に挟まったままでウニャウニャしていたが、あきらめて、バックですごすご出てきた。「どうして入れないんだろ？」とタラは納得のいかない顔つきだった。
安心した。このまま伸びて、足のはえたニシキヘビにでもなるのかと思っていた。
