タラの視線が画面にくぎ付けになった。ボールを追っているのだ。画面のボールを手で押さえたいのだが、まだチビなので、背伸びしても届かない。テレビの横から回り込んだり、上から覗き込んだり、大変なご執心ぶりである。気の毒に思って、小さな踏み台をテレビの前に設置してやった。
「ネコの頭が邪魔〜」
　という文句も出たが、その手の抗議はうちでは軽く無視される。

　サッカーのイマイチわからない女性にありがちなことであるが、私はプレーの技巧よりも、選手の顔を見ていた。なるほど、これがイタリアのイケメン軍団ね。あ、ベッカム様ね。

　タラの後ろ姿に邪魔されたテレビ画面に、ある日本人選手がアップになった。
「あ、この人、タラに似ている！」
Ｎ選手であった。Ｎという苗字の人は二人出ていたようだが、私がここで言っているのは、超有名なほうのＮ選手である。精悍な風貌とクールな言動で、人気は高い。プレーも巧いらしい。

　身体の割に頭が小さく、細長い顔に、小さい目。Ｎ選手、及びそのファンの皆様からは、袋だたきにあいそうなのだが、この発見に、私は一人大ウケしてしまい、周囲の人に
「うちに来たネコは、人間でいえば、サッカーのＮ選手みたいな顔なんだよ」
とふれ回ったのだった。

　大盛り上がりの末、ワールド・カップは終了した。祭りが終わると、サッカーへの興味は、シュルシュルシュル〜ッ、と消えていった。はて、タラは？

　普通のサッカー番組をつけてやった。画面に一瞥もくれず、ネズミのおもちゃをくわえて走り回るタラであった。

ナカタラ？