２７ 栗
うちの掲示板で栗が話題に上った。しばらくその話をしていたら、むしょうに栗ご飯が食べたくなった。栗は大好きなのだけど、あの硬い皮を剥くのが面倒なので、逃すことがままある。すでに剥いてある栗やら、お米と一緒に炊くだけのパック商品も売っているけれど、やはり、そのままの姿で買って、手をかけて作ってこその栗料理。昨今は、天津甘栗なども、剥かれた形で袋詰めになっているが、作業が省略できるものの、なんだかつまらない。ピーナツだって殻つきを剥いて食べるほうがおいしくないか？殻をかぶったカニを相手に奮闘するのも一興と思わないか？「剥く」という作業には、食料獲得本能やら味覚やらを高めるなにものかが隠れているような気がする。
掲示板における栗話と同時進行で、メールでは「第二次タラネンコに噛まれ隊」の打ち合わせが進んでいた。うちのタラをダシにするオフ会は、昨年夏に第一回を挙行しているのだが、それ以降に知り合いになった人も多くいる。さらに、リピーターになりたいという奇特なマニアも存在する。首都圏において、ネコネット仲間が互いの家を訪問することが茶飯事となっているが、ランチ持ち寄りというのがよくあるパターンだ。
私は「栗ご飯を作る」と宣言した。拙宅にお越しになる隊員の皆様は、それぞれに「オカズ系」「オヤツ系」などを自己申告。さて、主食はコケるわけにいくまいぞ。作った経験はあるのだが、念には念を入れ、お馴染みのネット検索。栗ご飯のレシピをあれこれ見る。ははん、餅米を入れるのがいいのね。炊くときに昆布いれて、最後に上に黒ゴマをかけるのね。問題は剥き方だ。秘訣はあるのか？
「栗のお尻部分から上に向けて剥きます」・・・・知ってます。
「前の日から栗を水につけておきます」・・・・そういえばそうでした。
「指の包丁があたるところに最初からバンドエイドを貼っておくと、マメを防げます」・・・・ぐえっ。
検索結果を次々に見ていくうちに、とあるHPの画像が目に止まった。
「これを使うと、うちの子供でも栗を難なく剥きます」
そのハサミ風の道具の名は「栗くり坊主」。次の日、私は東急ハンズの刃物売り場にいた。「栗くり坊主」は同じメーカーから二種類出ていて、どちらも２５７２円。ちと高いが、絆創膏でマメを防ぐより、道具に頼ったほうが得策ではなかろうか？毎年使えばモトも取れよう。新しいバージョンの方が改良されているような気がしたので、「栗くり坊主Ⅱ」をお買い上げ～。
続いて、近所のスーパーで栗ゲット。３８０円とお手頃値段なのに、ずいぶんたくさん入っている。白いトレイに入ってラップがかかった栗の団体を計りにかけてみた。１キロ。これは剥きごたえがありそうだ。栗の下ごしらえはイベントの前夜にしようと思っていたので、栗トレイをキッチンの野菜カゴの上に乗せておいた。
タラが来た。冷蔵庫脇の水飲み場にお越しのようだ。道中で栗を見て、タラの後姿が凍った。完全に腰が引けている。背中の毛が逆立っている。私がちょっと動いたら、その物音だけで、宙に飛び上がった。
はぁ？これ、栗ですけど。ネコを襲ったりしませんけど。しかし、タラは本気で警戒態勢に入ってしまった。カメラ、カメラ～っと。タラは水を飲みたかったことなど忘れてしまい、リビングのほうに戻ってきた。触らぬ神に祟りなし？もう一度言いますが、これ、栗ですけど。
面白いので、栗のトレイを持ってきて、タラの前に突き出してみる。タラ、後方にジャ～ンプ。パンチすら出さない。シャーもしない。栗を避けて、避けて、避けまくる作戦のようだ。カメラ、カメラ～っと。パシャパシャ。タラさん、何考えているの？故ポン太にはヘアブラシが怖いという弱点があったけどね。あんたは栗なのね。とほほ。
タラが水を飲みに行けないのはまずいので、栗は不透明な箱に入れ替えた。今度から、タラが悪いことをしたら、「ひかえおろう～」と栗を出すのか？それは季節限定な作戦。
１キロの栗を剥くのは、道具の力を借りても手がだるくなったが、マメは作らなかったのでありがたい。買って良かったぞ、栗くり坊主Ⅱ。うちの炊飯器は５合炊きなのだが、米４合プラス栗というあたりがキャパだと考えた。段取りばっちり、準備万端。それでも炊き上がって蓋を開けるまでは不安なり。ネコバカ集会開始のおよそ一時間前に「ピッピッピッピーッ」。できた～。炊飯器から秋らしい匂いが立ち上る。おお、良い出来だ。
三々五々、皆がやって来た。自宅のネコさん不調の心配を抱えた人が三人もいて、びっくり。今日はお日柄が悪かったのか？タイミングの悪い設定だったようだが、前もってそういうことはわからんの。ともあれ、食べる、しゃべる、ネコ写真撮る。八人も集まるとバカのエネルギーも炸裂だ。あれだけ栗に弱かったタラであるが、ゴハンに混ぜられ炊かれた栗は無害と判断したようで、テーブルの周辺をウロウロしている。しつこく追い掛け回してシャーッされた人もいるにはいたが、タラが別の部屋に逃げるということは最後までなかった。
サイト内では「極道ネコ」とか「KGB残党」とかいうキャラクターで売っているのだが、タラ、この日の午後はまずまずのホストぶりで「タラちゃん、いいコじゃ～ん♪」などと言われていた。ネコと見れば嬌声を上げる女の集団より、トレイに乗った栗のほうが怖いネコ。それもいかがなものか？
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