Oさんの見積もりは一週間程度で送られてきた。丁寧な字で、きちんと書かれた見積もりはとってもリーズナブルだった。この価格なら「安いの」を選ばなくても問題はない。値段交渉にエネルギーを費やす必要もない。むしろ、ついでに経年変化で汚くなった玄関部分の内装も追加したい。

　内装の見本帳は重くて嵩がある。私はバタンバタンとそれらを吟味した。「これか？」と思う見本を現場に持っていき、そこの照明に当てて、この模様が壁全体に広がったときを想像してみる。床と壁の組み合わせを見るために、それぞれが百科事典のように大きい見本帳を開いて縦横に並べてみる。更にその間に巾木の見本を挟んで見る。悩みながらも、大いに楽しませてもらった。追加でお願いすることにした玄関のたたき部分には、４５センチ四方のタイルをピッチリと敷いてもらうことにした。狭くて暗いマンションの入り口が多少は明るくなるように、以前よりライトなトーンにしよう。

　見本帳との戦いが終わり、選んだ品番を書いてOさんにファックス。やがて私のチョイスに基づく新しい見積もりが送られてきた。うむ。決して高くない。　・・・が、ここに書いてある「タイル、１５枚」って？　４５センチ四方のタイルを１５枚も敷き詰めたら、玄関からあふれ出して外廊下にまでも敷き詰めることになるんじゃ？　その不思議を尋ねる文書をOさんにファックス。その夜、焦り声のOさんから、電話がかかってきた。

　O：　「す、すいません。タイルの大きさを間違えて計算しました！」
　私：　「やっぱり。じゃ、その修正お願いしますね〜」

　速攻で修正ファックスが来たので、一件落着。タイルが余りまくらなくてよくなった。さ〜て、これですべての計画ができあがった。管理事務所に工事届けも出したことだし、あとは当日、水周りエリアを片付けてお待ちするだけだ。

　[　この件、早送りで工事初日へと進む　]

　私：　「Kさん、おはようございます。今日からよろしくお願いします。ところでOさんはいつから入られるんですか？」
　K：　「知らないよ」
　私：　「え？　OさんはKさんと相談しておられると思ったんですけど？　作業の順番というものがあるでしょう？」
　K：　「あとで電話してみるわ」

　不思議に思いつつも、KさんとOさんはよく一緒に仕事をしていることだし、これからの話し合いで間に合うのだろうと呑気にしていた。その夜、焦り声のOさんから電話がかかってきた。

　O：　「す、すいません。発注していただけるんですかっ？」
　私：　「はあ？　すでに品番も送ったし、見積もりもらったし、修正も出たし・・・、ええっ！　私、発注してないことになってたんですか？？」
　O：　「あ〜っ、そうだったんですかっ！！催促するのも申し訳ないと思って、ボク、待ってました」

　Kさんの言う「バカがつくほどの正直」の意味が、骨身にしみてわかった。うわ〜っ。私のステップが一つ足りなかったのか〜。頭の中では完全に終わっていたのだが・・・。Oさんはこれから急いで材料を発注するが、アコーディオンカーテンだけは間に合わないので後付けになるという。問題ありません。発注しそこねていたらしい私が悪うございました。

（注） 　画像は玄関のAFTER。本筋でなかったためBEFOREを撮るのを忘れました。