姉：「７月の連休、軽井沢行かな〜い？」
　私：「おっしゃ〜、万障繰り合わせる〜！」
　姉：「今度はカメ連れていくの〜。んふふ〜♪」

　軽井沢には義兄の会社が所有する役員専用別荘がある。ここには二年前に初めて行って、そのゴージャスぶりにひっくり返ったのであるが、その折、「軽井沢＝犬を見せびらかしながら過ごす別荘地」と学んだ。美しくグルーミングされたワンコが、ショッピング街にてうじゃうじゃ散歩。　レストランのテラス席には、テーブルの下で寝そべるお行儀の良いワンコ。あっちにラブラドール、こっちにハスキー。イヌバカな姉にとっては夢の避暑地だったのである。軽井沢、ヒトも歩けばイヌに当たる。

　 　カメとは、姉の家にいるワンコのことである。姉宅の初代ワンコ、ビーグル犬のビースケ君が１５歳で病没したとき、「うううう・・・次のコは絶対長生きしてほしい・・・」という嘆きから、姉は二代目を「亀は万年」というベタな発想でカメと命名。キャバリアというおしゃれ洋犬だのに・・・。「そもそも、享年１５歳って、ワンコとしては長生きちゃう？」という突っ込みはあっさり退けられ、「ツルって名前もいいわよ。お宅の二代目ニャンコにどう？」と返された。

イヌなのに↑カメ

　その別荘は、旧軽井沢銀座から徒歩１０分程度のところにある。原則「ペット不可」なのだが、先回行ったときにワンコ連れの家族を目撃。各ロッジは広い敷地内に点在しているから近隣の迷惑にはならないし、帰る前にちゃんと掃除さえしておけば特に問題はないらしい。そもそも、管理人さんは滞在する役員様御一行に説教する立場になさそうだ。その時から、姉は「カメちゃんとともに過ごす別荘ライフ」を思い描いていた。

　打ち合わせがメールで進む。

　姉：「カメの移動を短くしたいから、前日の夜に走る。別荘、一泊余分に押さえた」
　私：「じゃ、こっちも金曜の深夜に走る」
　姉：「土曜の朝用のパン、お宅の分もまとめて買っていく」
　私：「ワインとおツマミ、担当します」

　ところが、直前になってこんなメールが・・・。

　姉：「今回、カメはお留守番します」　
　私：「はあ？」
　姉：「だって、私達がゴハンや観光に出かけるとき、知らない環境で一人ぼっちで可愛そう」
　私：「ペットホテルに預けても知らない環境で、充分可愛そうじゃないの？　それに、ほれ、軽井沢はワンコオッケのカフェとかたくさんあったじゃん。一緒に出かけるんでしょ？」
　姉：「レストランのテーブルの下でオシッコするといけないし・・・」
　私（の心の突っ込み）：「それかいっ」

　そんなわけで、急転直下、カメ抜き別荘ライフがスタートした。軽井沢はマジでハイソである。素敵なブティック、高級食材店、雰囲気ばっちりレストラン。が、旧軽銀座をわーわー言いながらうろつく我らは、セレブからかなり遠い。

　姉：「ねぇ、明日のコーヒー用の豆、ここで買って挽いてもらお〜」
　私：「こ、これ、二百グラム１４８０円のコーヒーだでっ！」
　姉：「たまにはいいじゃ〜ん。あ、ワンコグッズのお店だ〜。ちょっと入る〜」
　私：「またかいっ」

　それにつけても、目に入るのはワンコであった。ワンピースを着たダックス、バンダナを巻いたレトリバー。ニューファンドランドに、アフガンハウンドまでいた。犬の見本市か？観光客だらけの通りを犬を連れた人々が得意げに行き交う。この地において犬連れってことは、別荘族って意味なのである。「タクはそこらのペンションに泊まってんじゃありませんことよ」という意味なのである。

　二日目の夕食は姪のネット調査の成果で、ドイツ料理店に予約が入れてあった。通りに面したオープンエアのレストランだった。軽井沢は涼しいから、開けっ放しで何の問題もない。ビールはビットブルガー、ワインはモーゼル。鴨料理をつつききながらおいしくいただく。こりゃ、ちょいとハイソでセレブに近づいたかも。隣の席に５、６人のやはり親族らしき一行がやって来た。ワンコ連れだ。

　姉：「あ、キャバ・・・」
　私：「え、３匹？　あ、４匹？」

　その一家が連れてきたのは、キャバリアばかり、トータル５匹だった。５匹とも用意されたテーブルの下にサササッに入った。覗き込むと丸い大きな目でこちらを見上げるが、どのコも飼い主一家の足元でおとなしくうずくまっている。おお、犬ができておられる・・・。「うちにもキャバ、いるんですぅ〜」と姉は隣の奥さんと犬談義を始め、義兄はカメラをテーブルの下に突っ込む。

　ワンコ連れであろうがなかろうが、別荘ライフはとっても楽しかった。木立の中の散歩は清々しい。マイナス・イオン大放出のせせらぎに触れ、免疫力もバージョンアップ。ジョン・レノン御用達ホテルにて、茶をすするもいとおかし。軽井沢はレストランのレベルが高く、外食はどれも大アタリ。ロッジにて現地調達の食料を食卓に並べて飲むのもオツだった。一泊素泊まり３０００円がありがたや。義兄が今の会社で長く役員を勤めることを祈るばかりである。

　別天地での三日が過ぎ、荷物をまとめて車に乗り込み、管理人さん宅に鍵を返しに行く。私も挨拶をしようと車から下りたら、義兄が「紅葉の見ごろはいつですかね？」と尋ねていた。秋こそはカメ軽井沢デビューの決意らしい。

　[付記]
　この話はfromサエコポンの「避暑地の出来事」、並びにネコイラズ第二話「熊出没」と合わせてお読みになると背景理解が深まります。尚、紅葉の時期に「カメのいた秋」というネタが出るかどうかは全くの謎です。