第六十三話 楽勝・コタキナバル H
|
楽園の最後
「どうせ、早めに空港に連れていかれるんだから、時間が余るだろ」 チェックアウトはスムースだった。南国のホテルはおおむね適当なので、かけてもいない電話代が請求されたり、飲んでもいないドリンク代がついていたりすることがままあるのだが、ここはきっちり正確、明朗会計。残っていた現地通貨を使い、足りないところをカード払いにする。迎えのバスは定刻に発車。コタキナバルの移動では常に時間がきっちりしていた。南国だけれど、ビジネスは真面目というの、真面目社会に浸っている日本人にはとても助かる。ストレスのない、トラブルのない旅行だった。無理のない移動、おいしい食事、親切で誠意のある人々。こんなに楽な海外旅行はこれまでにしたことがない。コタキナバルって本当にいいところだ。 10分後、空港に到着。それぞれが荷物を持ってガイドさんに先導されてチェックインカウンターへと進む。これで搭乗券を貰えば、あとはたっぷり暇。あれ? ガイドさん達がカウンターで慌てている。空港係員もオタオタしている。我々の担当ガイドさんが、並んでいる成田行きの客のところに戻って来た。
「システムダウンです」 ガイドは皆のパスポートを集めてカウンターに並べ、なにやら懸命に照合しているが、飛行機一機分の客の搭乗手続きである。とても時間がかかりそうだ。それにシステムダウンの影響は全便に及んでいるはずだから、空港係員も大変である。閉まっていたカウンターにも係員がやってきて作業を始めた。なすすべも無く、スーツケースと共に立ち尽くす搭乗予定者達。
「こんなとこで時間食うと、お土産買えなくなるね〜」 数十分の後、額に汗したガイドが各自に搭乗券を配り始めた。やれやれ。やっとスーツケースを預け、自由な身になったので、お土産屋に向う。カゴの中にチョコレートだのなんだのをバサバサ投げ込んで、オットは会計へ行き、クレジットカードを差し出す。店員がカードを読み取り機械に通す。もう一度通す。更にもう一度通す。
「このカードは使えません」 そんなわけはないが、オットはサイフから別のカードを出して店員に渡した。そのカードを読み取り機に通す。もう一度通す。更にもう一度通す。ダメじゃん。
「なにがいけないんですか?」 意味がわからんが、私のカードも出してみる。認証されない。私の二枚目のカードを出してみる。認証されない。レジの列に人が滞留し始めた。後ろからイライラした視線を感じる。店員も困惑している。
「キャッシュで払えませんか?」 別の店員が、溜まった客を受け継いだので、ちょっと脇によけて、憮然と立っている我々。最初の店員が、電話をかけ始めた。クレジットカードを手に、どこかとなにやら話し合いをしている。私らのカードのどこが怪しい?一時間ほど前にホテルの清算に使ったの、それだがね。はん?
「だ〜れがお土産は空港で買うって言いはったのっ」 夫婦間の空気も悪くなってきたころ、店員が戻って来た。カードは電話で認証されたんだそうだ。システムダウンの影響でもあったのか?サインして、商品を受け取る。中くらいの袋ふたつに入っていて持ちにくそう。
「すいませんが、大袋にまとめてください」 搭乗時間も迫りつつあるので、お土産の入った袋二つを抱えて出国手続きをし、出発ゲートへと歩を進める。大きなガラス窓の外を見るとスコールだった。雨は到着した日の夜以来なので、お天気運に恵まれた旅行だったということになる。搭乗が始まり、パスに書かれた座席番号を見ると、またAとC。マレーシア航空ではAとCが隣り合わせということにはもう慣れた。機内で荷物を頭上と座席下に収納。やはりシステムダウンが祟ったのか、出発は30分くらい遅れた。それでも、猛スピードで飛んだらしく、成田到着はだいたい予定通りだった。フライト時間が短いって本当に楽〜。
帰国は金曜の夜であったので、翌日からは普通の週末である。いきなり次の日から仕事でないというのが、また楽〜。土曜日、山のような洗濯物を干した後、いつものスポーツクラブに出かける。ロッカルームで水着に着替え、体重計にそっと足を乗せる。その刹那、毎朝の豪華ブッフェ、シーフードやらイタリアンやらの満腹夕ご飯、ガンガン飲んだビールなどが、脳裏でフラッシュバック。さて・・・。 ん? ほとんど変わってないじゃん。むしろちょっと減っているじゃん。5日間の極楽旅行のビフォー&アフターは、マイナス0.45キロ。わはは、やったね。大楽勝!!!
2009年10月21日
|