四日目、前日に続いて、この日も希少なサルに会いに行く。コタキナバルにあるもう一つのシャングリ・ラであるラサリアには、オランウータンの保護区があり、一日二回の餌付けタイムに見学をさせてくれるのだ。見学者は人数限定で、どっちかのシャングリ・ラに泊まってないと見られないらしい。人気アクティビティだと聞いたので、到着時に速攻で予約を入れといた。

　朝、八時発のシャトルバスに乗り、約一時間後にラサリアに到着すると、コンセルジュが迎えてくれた。リゾート内マップを配って「ブリーフィングがあるので、九時半にはこの場所に行ってください」と言う。まだしばらく時間があったので、この巨大リゾートを探索してみることにした。ラサリアは町から遠いだけに、自然たっぷりの壮大なホテルである。目前に白砂の広々としたビーチを抱え、後方にはジャングル。そのジャングル方面にオランウータンが保護されているわけ。

　時間になって、保護センターに行ったら、迎えてくれるスタッフは皆カーキ色のサファリスーツを着ていた。カーキ服の受付嬢が、見学費を集め、カーキ服のレインジャーお兄さんが、ブリーフィング。注意事項などを言う。大事なことは「触らない。食べ物を与えない」、そして何よりも「静かにする」なんだそうだ。ラジャー！

　保護区への入り口は、地味めのジュラシック・パーク風。そこからしばらく密林の中の階段を登り、見学用ウッドデッキに到達。レインジャーお兄さんが数メートル前にあるお食事用デッキに、餌をドサッと置く。しばらくすると右手の樹木がザワザワ〜ッとして、おお、やって来た子供オランウータン！！ここの保護センターは保育園みたいなところで、ある程度育てたらサンダカンにある大きな保護区に送られるのだそうだ。だから、ここのウータン達は小学校低学年くらいの背丈で、表情もあどけない。お兄さんの足にすがって甘えたり、ロープでターザンごっこをしたり、実に可愛い。見物人はささやき声で「かわいいわ〜」などと言い合う。ウータン達の餌を狙って、どこにでもいるサル達がやってきた。要領のいいヤツが、手を伸ばして餌を持っていく。たまにムッとしたウータンに怒られているが、ちょっと後ずさるだけで決してめげることなく、攻防を続ける。盗む手口がおもしろい。押し殺した笑いが拡がる。

　その時、チャラチャラした音楽が鳴り響いた。

　「ニンハオ！」

　斜め前の男が、携帯を取り出し大声で話し始めたではないか・・・・。ありえね〜。さっきのブリーフィングで「静かに」って言ってただろうが〜〜。呆れて、目を見合わせる他の観光客。しゃべり続ける中国オヤジ。引くオランウータン。そこを攻め入る普通ザル。

　さて、ウータン見物は興味深いが、なにぶんジャングルで、虫も来るし暑いし、頃合いを見計らって、リゾートに下りていくことにした。帰りのシャトルバスは１２時発を予約しておいたので、まだまだ余裕。売店でアイスクリームを買い、ビーチを見下ろすラウンジで食べる。同じバスでタンジュンアルから来た日本人の女の子二人も、アイスクリームを買ってきた。「私達、これからリバークルーズです。こっちのシャングリ・ラでピックアップしてもらうことになってて」と言う。ええ〜っ、一日にジャングル活動を二つも入れたの〜。若いって恐ろしい。若くない私達は戻りのバスに乗り込む。

　「ニンハオ！」

　うそ〜。さっきの携帯オヤジが斜め後ろに座っている。わめき散らすがごとき一方的会話が、バスの中で延々と続く。何をしゃべっているのか知らないが、乗り合わせた人々がそれぞれの言語で「民度、低っ」と毒づいていたと思う。携帯オヤジの声も高らかに、バスはコタキナバルの繁華街に入っていく。私達はウィスマ・ムルディカというショッピングセンター前で途中下車した。下調べでは、このショッピングセンターのすぐそばに、いいレストランがあるの。ランチだ、ランチ。

　大通りの角地に「リトル・イタリー」発見！ そう、ボルネオでイタリアンなの。窓際の席に案内され、ランチメニューを見るとセットがお得のようだった。そこでパスタセットとピザセットを頼む。

　「パスタはペンネでアラビアータにしてね。ピザはシーフード。それぞれにサラダorスープとガーリックブレッドがつくの？それはナイス。じゃ、サラダとスープ一つづつ。あと、ビールもお願いします」

　ウエイターさんはフレンドリーで感じがいい。ビールとガーリックブレッドがさっそくやってきた。うっわ〜〜、このパン、バターがしみしみで、激ウマ〜。ピザが来た。ふぉ〜っ、チーズが惜しみなくかかって濃厚〜。ビールお代わり、プリーズ。ひょ〜、ペンネしこしこ〜。どの料理も本格的なお味だった。我々は胃袋キャパが大きくないので、とても食べきれない量なのだが、あまりにおいしいので意地汚く頑張る。大満足で「チェック・プリーズ！」。トータル、日本円に換算して２４００円くらい。ビール代を除くと、二人前が１２００円くらいの話である。安いなぁ。

　店の前に客待ちのタクシーがいた。

　「タンジュンアルまでおいくら？」
　「１５リンギッド」

　そこは繁華街でもホテルから遠い方だったが、どこから乗っても、同じ料金らしい。楽々と、そして安々とホテルに戻る。残された滞在時間はもう短い。今日、是非やりたいことがもう一つ残っているのだ。