それがそもそもの始まりだった。毎年６月には仕事を繰り合わせて、近めの海外か遠めの国内旅行をするのだが、今年はツレの仕事の状況がそれを許さんらしい。そこで思いついたのが、近場なのに一度も行けていないディズニー・シーだった。ああいうとこは混むから、平日でないと嫌だとずっと思っていた。そうだ、その平日一日休みを利用してシーに行こう。

　早起きすると国内旅行でも時差ボケをおこす私なので、この際、前泊用にホテルをとることを考えた。海外旅行に行くことを思ったら安いもんだ。で、調べてみたら、本当に安いもんだった。６月の平日でルームチャージがネット予約なら、税サ込み１３０００円。狭いながらも一応TDRオフィシャルホテル♪　更に、ディズニーにはAfter６パスポートなるものがあることを発見。平日の６時以降に入園するならお一人様２９００円。

　「会社出れるの、何時？」
　「急げば５時」
　「じゃ、６時に入園オッケね？」

　そんなわけで、レジャーの予定はこう決まった。私は前日の仕事を休めるので、自宅から荷物を持って一人現地へ向かう。チェックインして、荷物を置き、６時にランド前でツレと落ち合い、１０時まで遊ぶ。ホテル一泊の後、朝一でシーに入り、夜１０時まで遊び倒して帰宅。帰宅は金曜夜なので、土日で体力も回復。事前に行きたいアトラクションを決め、ネットの友達に相談して攻略法まで研究。ふっ、ふっ、ふ。我ながら水も漏らさぬ完璧なプランだ。

　落とし穴はわかりやすいところにあった。６月のニッポンは雨季だった。長期予報では当日は曇り程度だったが、近づくにつれ、その二日でどうもピンポイントで降られそうな話になってきた。ぐえっ。

　百円ショップに走り、雨ガッパ、レジャーシート、ビニール製手提げを購入。デジカメはジップロックに入れた上でウエストポーチに収納。備えあれば憂いなし。小雨そぼふる午後、二人分の荷物を肩に自宅を出発。実はうちからTDR最寄り駅まで、ほんの１時間半程度なのである。

　舞浜駅からホテルまでは送迎バスがあった。天候は悪いが、バスのミッキー仕様が嬉しい。吊革がミッキー。エアコンの吹きだし口がミッキー。運転手さんからしてTDRのキャスト並の服装と応対なり。ホテルではチェックイン時「本日はお部屋に余裕がございますので、グレードアップさせていただきました。追加料金は必要ありません」とナイスな言葉がいただけた。きれいな広めの部屋に案内される。気分、やや盛り上がる。

　ツレの携帯にメールを送る。

　「当方チェックイン完了。そちら何時に到着？」
　「会社にてトラブル発生。当方これから出発。到着は６時半を予定」
　「んがっ！」

　舞浜駅改札からヨロヨロと出てきたツレが、サラリーマン姿なのは仕方ないものの、書類カバンまで持っている。

　「その荷物なに？」
　「これ、持って帰って、月曜までにやっとかないと・・・」
　「んんんっ、コインロッカーどこっ？！」

　余計な荷物をロッカーにぶち込み、やっと入園。お目当てのスター・ツアーズの待ちが長いようなので、向かいのミクロ・アドベンチャーへ。ネクタイをしたまま３Dの黄色いメガネをしているオッサンは目立つ。

　そこから先が闇だった。雨は大降りではないが、決して止まず、行きたいアトラクションはどれも４０分以上の待ち。しかも暗いので看板関連がよく見えない。あれはこのあたりかな〜と近寄ってやっと発見すると「本日は運行を中止させていただいております」・・・。周辺にはやたらと修学旅行の中高生がうごめいている。「ここは待ち時間がないよ」と入ったのが、カントリー・ベア・シアター。いい年こいたオトナが縫いぐるみの熊に歌を歌われて何が嬉しかろう？

　そろそろパレードの時間だ。小雨ならミッキーもレインコートで登場と聞いたぞ。確かこのあたりがスタート地点だからと、スタンバろうとしたら「本日は悪天候のため、エレクトリカル・パレード・ドリーム・ライツは中止させていただきます」の放送・・・。心なしか雨足も強まり、一挙に盛り下がる入園者。そして行き場を失った難民は再び人気アトラクションへ並ぶ・・・。蒸気船マーク・トゥエイン号上にてやさぐれる我々。雨水がスニーカーに沁みこむ。

　それでも９時頃になると修学旅行の団体が去り、列が消えたのでスター・ツアーズに乗れた。星の間をスッパーンと抜けて飛ぶ感じがとても好きかも。これにて折り合いをつけよう。１０時頃、再びミッキーのバスでホテルへ。

　翌朝、部屋のカーテンを開けたら雨は止んでいた。「よっしゃっあ！」とコブシを握り、気合を入れる。９時の開園とともにシーに入る。攻略アドバイスによると、まずインディ・ジョーンズのファストパスをゲットしてから、他の人気ライドに並ぶんだよね。あり？ずいぶんすいてない？ファストパス取らなくても１０分で入れるって。

　６月の平日で、しかも予報が雨だったシーは激的にすいていた。どれでも入りたい放題、乗りたい放題。更に修学旅行生がまったくいない。ランドにはあんなにいたのに、なんで？

　「シーは酒が飲めるからじゃない？」
　「それだ」

　そう、シーはお酒が飲めるのである。ランチでは大好きなメキシカン料理を食べながら、ビールを飲み、フローズン・マルガリータのお代わりをし、すっかりご機嫌モードに突入。

　「夜ゴハンはどこにするよ？」
　「次はワインがいいんでない？」
　「いっちょ、豪勢に？」
　「海外行けないし、バチは当たるまいて」

　予約を入れたのはS.S.コロンビア・ダイニング・ルーム。その昔、大西洋を往復していた豪華客船S.S.コロンビア号、三階デッキに陣取るゴージャス感漂う広いレストランであった。

　金色の手すりがついた絨毯敷きの階段を登り、ロングスカートの優雅なウエイトレスに案内されて、グランドピアノのすぐ近く、窓からは夜景も見えるラブリーな席に座った。周囲の装飾もエレガント。

　「なんか、タイタニックでディカプリオが入った一等のディナールームみたいだね」
　「問題は我々の服装が三等客のまんまってことかね」

　一日中、外をウロウロしていたゲストの皆さんの格好はTシャツにジーパン程度で、フルコースディナーをサーブされているのであった。

　ワインのフルボトルを軽く空けた三等客二名は、下船後、千鳥足で園内中央の水辺へと進み、地べたにピクニックシートを広げる。これから始まるブラヴィッシーノと花火大会を、このお座敷で、いざ。

　「なんか、水がかかるね〜」
　「池のすぐ側だからね〜」

　かかっているのは雨であった。しかしすでにマワッているので、細かいことは気にせず、さっさと用意の百円雨ガッパを着用する。

　水上のショーはキャラクターのパレードと違い、雨が降っても濡れてもどうせ同じことなせいか、中止になることはなかった。優美な放水とドラマチックな炎、それに音楽が相まって、非常に盛り上がりのある中身の濃いひと時であった。さすがディズニー、娯楽の殿堂。雨に濡れても観客は大満足。

　「堪能したね」
　「仕上げにもう一回かね」

　ということで、センター・オブ・ジ・アースの三回目を疾走した後、ディズニー・シーを後にし、舞浜駅へと戻る。JR京葉線がホームに滑り込む。

　「窓がミッキーの形じゃないね」
　「乗客も運転手もお手振りしないね」
　「ち」

　非日常から、日常へと電車は走り始めた。