私が住んでいるのは、大規模開発のマンションで、およそ２０００世帯が生活している。コミュニティ活動がかなり盛んだ。夏と秋に住民主催のお祭りがあり、そこでフリマを出すことができる。畳二枚程度のスペースで参加費が５００円。毎年賑わっているので、買い物をしたことはあるが、出店するのは初体験である。

　一人だと、トイレや飲食の休憩も取れないので、パートナーが欲しいと思い、近所に住んでいるS美ちゃんに声をかけてみた。S美ちゃんは昔の同僚なのだが、あれこれあって転職し、その後、またあれこれあった後に、フランス人と結婚した。しばらくフランスに住んでいたが、数年前に「東京に引っ越す」と言うので、「うちのマンション、規模がデカいから賃貸の出物がいつでもあるよ〜」と誘ったら、一家四人、成田チョクでやってきて、拙宅に一泊し、その次の日に賃貸契約をまとめ、三日目には入居するという電光石火な引越しをした人である。隣の棟に三年くらい住んでいたが、「お家賃払い続けるの、もったいないし」と、近くの別のマンションを買ってまた引っ越した。

　「うちは引越しばかりしてたから、売る物がほとんどないのだけど、子供達が、オモチャ、売りたいって言ってるの。それでもいい？」
　「全然、問題ない。パートナー、よろぴこ〜」

　前もって、家中の不用品を集め、値札をつけ、お釣りと買い物袋を用意。座布団、あったほうがいいな。値下げするときのためのマジックと紙とテープも入れとこ。当日は雨が懸念されたが、結局いい感じの曇り空になった。会場は徒歩１分のところなので、オットにも頼んで数回往復して搬入。朝１０時頃、クジで決められた区画にS美ちゃん一家もやって来た。フリマの開始は１０時半と決められており、まだ設営の段階なのだが、段ボールからブルーシートの座敷に出そうとしているところに、すでにワラワラとオバサン達が群がって来た。

　「バスタオルない？」
　「フォークとスプーンのセットない？」

　フリマでの買い物、極意は先手必勝らしい。

　「あります、あります。バスタオル二枚が箱に入って８００円です。カテラリーセット、今、探します、ちょっと待ってくださいね。絶対あります」

　「箱はいらないわ。タオルだけ袋に入れてちょうだい」
　「このセット、１２００円なのね。１０００円にならない？ねえ？」

　客は場慣れしていた。同じ地域で毎年二回もフリマやってりゃ、買う方も要領が良くなるはずだわ。売る方は初めてだが、すぐその場に馴染んだ。

　「奥さん、これ、負けるの、つらいわ〜。だって、デパートで買ったら、３０００円はしますも〜ん。でも、もし、この値段で買っていただけるのなら、こっちのどれでも５０円箱から、お好きなもの一個オマケでつけますけどぉ〜」

　「どれでも５０円箱」には、ガラクタが入っているのだが、客は、最初の値段がそもそも安いのは承知の上だし、どこかで譲って貰えると嬉しくなるので、「じゃ、この貯金箱つけて♪」みたいなことで商談がまとまる。互いにハッピー。

　同じシートの右半分では、日仏混血の少年二人が、なかなか微笑ましい商売をしていた。子供客相手に「遊戯王のカード５枚で１０円」、「いやいや１０枚で１０円」みたいな交渉をしている。時々「ねぇ、これ、２円で売るんだけど、この子、１０円しか持ってなくて、ボク、お釣りないんだけど」なんてことを私に言う。シートの左半分と、右半分では全然デノミが違うんである。「一円玉の用意はしてこなかったよ〜」と言うと「じゃ、いいや。これ、タダであげちゃうっ」といきなり太っ腹になったりしている。

　目ぼしいものは午前中にはけ、お昼時にはS美ちゃんが、ヤキソバを買って来てくれた。あたりには住民による綿菓子屋だの焼き鳥屋だのが並んでいるのである。その後、品物が減ったので、残ったものを見えやすいように並べ変えたり、イマイチなものをプライス・ダウンしたりする。子供二人はついにおもちゃを完売し、「売るものがないから」とシートの前に空き缶を置いて、変なダンスを始めた。テナント同士のお付き合いも大事かもと、１０円チャランと入れてやる。皆、地元なので、通りかかる人々には知り合いも多く、彼らが保育園かなんかの時の先生が来て「大きくなったね〜」と懐かしそうに言った。少年が「先生も大きくなったね〜」と返すので、大笑い。先生が去ってから「だって、女の人に太ったね〜はまずいでしょ？」だと。このあたりはフランスの血か？

　３時頃には、私の商品ラインアップも寒々しい状況になってきたので、撤収を決意。売り上げをざっと数える。むふふ。おされレストランにてのワインつきディナーお二人様分くらいはある。よしっ、来年に向けて、また不要品を溜め込もう！