「Ｔさんに留守をお願いすれば、俺らが旅行してもタラは平気じゃん」

　タラの甲状腺機能亢進症が発覚してからおよそ三年。飼い主は一泊二日以上の留守をしないようになった。留守中に何かあったら大変だ。しかし実際のところ、留守中のタラは暇なせいかゴハンを通常以上に食べ、帰宅したときの文句はすごいが、体調を崩すことはなかった。私自身、一泊二日ではカバーできない旅程を常に思い留まる必要性について、若干の疑念も涌いていた。

　そこで、Ｔさんに、話を持ちかけてみたら、すご〜く嬉しそうに「いつでもいいですよ！」との返事だった。Ｔさん宅にはかつて複数のネコがいたが、どのコも亡くなり、今は奥さんのＹ子さんとの二人暮らしである。そもそもネコ達は結婚したときのＹ子さんの連れ子だったのだそうで、彼女がまたとんでもないネコ好きらしい。

　電話で「事前に鍵とメモを私が持ってお店まで行きます」と言ったら「いえ、うちのと一緒にこっちから行きます。色々と確認もあるし」との返事。「申しわけないなぁ」と思っていたが、出発の３日くらい前に、打ち合わせと鍵受け渡しにご夫婦がやって来た。

　Ｔさんが色々質問をしたので、私がそっちを向いて説明していて、ふとＹ子さんの方を振り返ったら、な、なんと、Ｙ子さんがタラを抱っこしていた！　この過剰防衛ネコを飼って１４年、我々以外の人にあっさり抱っこされて甘えている姿を、初めて見た。目を疑いつつ、思わず証拠写真まで撮ってしまったよ。

　

　Ｔさんは「キャリーはどこにしまってありますか？　病院はどこに行っていますか？」とまで訊いてくれた。「キャリーは天袋で、病院はＳ動物病院ですが、いくらＴさんでも連れていくことは困難だと思います。タラは病院ストレスがひどいですし。何かあったら連絡していただければすぐ戻ります、国内ですから」とメアド等を交換した。

　そんなわけで、２０１６年５月２０日の朝、我々は新幹線に乗り込んだ。二泊三日の青森県への旅の始まりである。

掲示板へ　目次へ　次へ