「あの〜、タチウオ寿司あります？」
　「あ〜、海が荒れたから、タチウオは取れなかったんですよ」
　「わ〜、残念」
　「地モノのタモリが入荷していますから、それで刺身定食にするってのはどうですか？」

　タモリと言えば、♪お昼休みのウキウキウォッチング♪しか知らないが、板さんの薦めだし、「じゃ、ソレ」と言ってみる。来た、来た。白身の魚である。地元の人でもほとんど知らない魚で、スーパーには絶対に出ないらしい。タイとかヒラメと似たあっさり味の魚で、お吸い物と野菜のおかず数種と一緒に提供された。おいしい。これって、メニューにないけど、おいくらかしら？珍しいお魚ってお高いのかしら？勘定書きをめくってみたら一人前が千円だった。有田もいいところだ〜。

　腹ごしらえができたところで、白崎海岸へ向う。名前の通り白い岬である。車を降りて少し歩いてみた。紀伊水道から吹きつける風が強く、打ち寄せる波は非常に荒い。これではタチウオも取れまいよ。ゴツゴツとした石灰岩の白と海の青が美しいコントラストであった。

　次に、安珍清姫伝説で知られる道成寺に。平安時代のこと、熊野詣に出かけた美形の僧侶安珍に恋をした清姫は、妻にしておくれとせがみつつ、一夜を共にする。が、「戻ってくる」との約束を反故にし、修行中の身である安珍は逃げ出してしまう。怒りに狂った清姫は大蛇となって安珍を追いかけ、この道成寺へ。大鐘の中に隠れた安珍だが、大蛇は鐘に巻きつき、炎で安珍を焼き殺す。大蛇清姫も入水して後を追う。そんな派手な物語の舞台として使われたにしては、普通の落ち着きのあるお寺であった。

　朝から、あれこれ観光しながら紀伊半島を走っているが、田辺市に入った頃には、太陽がかなり西に傾いていた。白浜までもう少しのはずだ。宿にチェックインする前に、南方熊楠記念館と円月島に行きたいのだが、熊楠の方は５時の閉館時間に間に合いそうにない。夕陽の名所である円月島に日没前に到着できるであろうか？海岸線を爆走するレンタカー。

　半島をグルリと回ると、右手前方に見えて来たのは、真ん中に穴の開いた小島。おお、あれこそが円月島だ。周辺道路には違法駐車の車がたくさんあって、皆さんカメラを手に夕陽鑑賞中。我々もなんとか隙間を見つけて車を止めて、走り出た。間に合った。ジャスト・イン・タイム！