２３ ボリュームの問題
話す声は普通だと思うのだが、私はくしゃみがでかい。文字にすると「ぶわっくしょいっ！」で、「くしゅっ」などと可愛い音でくしゃみのできる人が羨ましい。私がくしゃみをすると隣家の犬が吠える。くしゃみは不随意である。自分で制御できないから、たぶん死ぬまで私は「ぶわっくしょい！」だ。
鳴き声は普通だと思うのだが、タラはゴロゴロ音がでかい。子猫のとき、そのボリュームの大きさに驚いた。生後二ヶ月のチビが、膝の上で大音響をたてバイブレートしながら寝るのだった。そりゃ、先代のポン太だって、ゴロゴロはやった。だが、耳を寄せれば聞こえる程度のゴロゴロだった。二代目のゴロゴロを聞くのに、耳を近づける必要はない。５メートル離れていても聞こえる。同じ布団内でやられると安眠妨害で、まるで喘息患者と同衾しているようだ。
うちの夫は早寝早起きな人である。１１時過ぎには寝るしたくを始める。その様子を目ざとく見つけてタラがスタンバイする。「寝る前に遊ぶ」という習慣をつけてしまったのがいけない。リビングの定位置でストレッチに入るタラ。パジャマ姿の夫を追いかけ、ボテンと倒れ込む。
「またかよ〜」
ぼやきつつも、タラのお尻を叩いたり、尻尾を引っ張ったり、飛び上がらせたりするオッサン。ドタバタの間にゴロゴロ音が聞こえる。その遊び方は強烈で、人間の方も生傷が絶えない。あげくに、高く持ち上げてもらって、天井の照明から下がっている紐をつつかせてもらい、両手で掴んで引っ張るタラ。カチャ、カチャ。電気が消える。
「ちょっとぉ〜、つけるとこまで責任もってよね〜」
「ふわ〜い」
再びタラがタカイタカイになって、カチャ、カチャ。電気がつく。
「じゃ、あとはよろしく」
遅寝遅起きな私にタラが手渡される。バネのような身体、汗ばむ肉球、早撃つ心臓。あたりに喘鳴が轟く。ボリュームはマックス。ネコの身体全体がスピーカーのように共鳴している。
「グワロロ〜、グワロロ〜」
ネコは幸せなときに喉を鳴らす。一説には母猫のオッパイを吸っていたときのなごりだとも言う。平和で満ち足りたときにゴロゴロいうのが、普通ではないのか？喜怒哀楽の激しいタラは、カッとなるとすぐ暴力沙汰に発展するが、嬉しいときもネコ一倍嬉しいらしい。だから、あのように派手に喉を鳴らすのか？
「ぶわっくしょいっ！」
「グワロロ〜、グワロロ〜」
共に制御不能。
